質問の意図
今回のご質問は、蟯虫駆虫成分であるパモ酸ピルビニウムが、なぜ消化管吸収されにくいのか具体的な理由を教えてほしいという内容です。この質問をしてきた方は、非常によく勉強している方です。なぜなら、医薬品の消化管吸収について踏み込んで勉強していないと疑問に思わない部分だからです。
パモ酸ピルビニウムについて、試験問題作成に関する手引きには、以下のように記載があり、この文章そのままの形で試験に出題されることがあります。
蟯虫の呼吸や栄養分の代謝を抑えて殺虫作用を示すとされる。 赤~赤褐色の成分で、尿や糞便が赤く着色することがある。水に溶けにくいため消化管からの吸収は少ないとされているが、ヒマシ油との併用は避ける必要がある。また、空腹時に服用することとなっていないが、同様の理由から、脂質分の多い食事やアルコール摂取は避けるべきである。
試験問題作成に関する手引き
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/sikentebiki_4.pdf
結論から言うと、パモ酸ピルビニウムは脂溶性が非常に高いからです。
パモ酸ピルビニウムの実際の商品としては、パモキサン錠という商品があります。
消化管吸収について詳しい内容の書いてある文献が見つからなかったので、パモキサン錠の製造販売元である佐藤製薬さんに問い合わせたところ、上記のような回答が得られました。
ただ、これは、消化管吸収について多少なりとも知っていないと理解できませんので、次にもう少し詳しく記述していきます。
消化管吸収について
一般的に、 消化管吸収は以下の性質があるものほど高くなります。
①脂溶性が適度に高い
②分子量が小さい
一番上の手引きからの引用の通り、パモ酸ピルビニウムは「水に溶けにくい」と書いてあります。つまり、 パモ酸ピルビニウムは、「脂溶性が高い」と言い換えることができます。
ここで浮かぶ疑問は…
脂溶性のものの方が吸収が良いとしたら、パモ酸ピルビニウムは脂溶性なのに、なぜ消化管吸収が低いのか?
と言うことです。
それは、パモ酸ピルビニウムは 脂溶性が「適度に」ではなく、「非常に」高いからです。
水溶性のものよりも脂溶性のものの方が吸収が良いのは事実なのですが、
脂溶性が高すぎると、今度は逆に吸収が低くなってしまいます。
吸収されるには、水に溶ける性質が多少なりとも必要なのです。
登録販売者試験では、「パモ酸ピルビニウムは、水に溶けにくいため、消化管吸収がほとんどない」という簡単な文章でしか問題文に出てこないため、
パモ酸ピルビニウムは水に溶けにくい
→パモ酸ピルビニウムは脂溶性と推測される
→脂溶性であれば消化管吸収されるはずだ
→なのになぜ手引きは「消化管吸収が少ない」という記述になっているのか?
このような思考の流れによって、疑問に思うのは当然のことかもしれません。
ヒマシ油との併用
パモ酸ピルビニウムを使った後に下剤を使うことがありますが、その際に、小腸刺激性の瀉下剤であるヒマシ油は使ってはならないということになっています。これも、パモ酸ピルビニウムの脂溶性が高いことが理由です。
パモ酸ピルビニウムとヒマシ油を一緒に使用すると、パモ酸ピルビニウムがヒマシ油に溶け出してしまい、吸収されやすい形になってしまいます。すると、想定よりも消化管吸収が多くなり、パモ酸ピルビニウムの副作用が出やすくなることが考えられます。
ちなみに、尿や糞便が赤く染まるのは、パモ酸ピルビニウムが赤色色素だからです。
合わせて覚えましょう。