ヒマシ油の概要
ヒマシ油は、ヒマシ(トウダイグサ科のトウゴマの種子)を圧搾して得られた油を用いた生薬で、小腸でリパーゼの働きによって生じる分解物が、小腸を刺激することで瀉下作用をもたらすと考えられている。
試験問題作成に関する手引き
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/sikentebiki_4.pdf
ヒマシ油は、キャスター(カスター)オイルとも呼ばれ、化粧品業界など、薬以外の用途としても使われています。
ヒマシ油は、ドラッグストアなどで実際に働くと分かりますが、 接客する機会が(ほぼ)無い薬です。しかし、登録販売者試験では超頻出の成分となっております。
なぜ頻出かというと、作用機序が特殊であることと、注意点が非常に多いことが挙げられます。
医療的には、 小腸刺激性の瀉下薬(下剤)で、急速な腸内容物の除去のために使われます。
ここで一つポイントとなるのは、 他の瀉下薬と異なり、大腸刺激性ではなく、 小腸刺激性であるというところです。
急速な腸内容物の除去というのは、なにかを誤って飲み込んでしまい、それを早く出したい時や、食中毒の時のことなどを言います。
とにかく体内のものを外に出すというのがこの薬のはたらきなので、瀉下薬としての効果と共に、副作用として「悪心・嘔吐」があります。
上からも下からも出る…というふうにイメージしておくとわかりやすいかもしれません。
ヒマシ油の作用機序
ひまし油は、そのままの形では腸管粘膜刺激作用はありません。
薬として効果を示すまでに、以下のようなプロセスを辿ります。
- 十二指腸で、リパーゼによって加水分解されて、リシノール酸とグリセリンに分かれる。
- リシノール酸が腸のアルカリによってリシノール酸ナトリウムとなり、これが小腸粘膜の水分吸収を抑制する。
- 腸管内に大量の水分が残ることになり、これによりぜん動運動が亢進する。
ヒマシ油は、小腸でリパーゼによって分解されるということは、覚えておきましょう。
ヒマシ油の注意点
ヒマシ油と脂溶性の物質との併用
駆虫薬など脂溶性の物質一緒に使うと、その成分がひまし油に溶けだし、脂溶性成分の吸収が高まってしまうので副作用の元になります。
防虫剤や殺鼠剤など脂溶性の成分(ナフタレンやリン等)を誤って飲み込んだ場合の対処としても、上記の駆虫剤との併用と同じ理由で、使うことができません。
授乳婦への使用について
吸収された成分の一部が乳汁中に移行して、乳児に下痢を引き起こす恐れがあるので、母乳を与える女性は使用を避けるか、使用期間中は授乳を避ける必要があります。
乳幼児への使用について
3歳未満の乳幼児では使用を避けることとされています。
ヒマシ油に関するエピソード
ヒマシ油の歴史は古く、さまざまな文学や映画作品などにも登場します。
私が最近見たアメリカドラマで、”The Night of” という犯罪ドラマがありますが、この中でもひまし油が出てきました。
そのドラマでは、主人公が殺人の罪で収監され、どんどん囚人の生活になじんでいく(なじまざるを得ない)という様子が描かれています。
ある日、飴玉のように何かで包まれた覚せい剤を面会人から5個受取り、それを看守に見つからないように丸呑みし、中に持ち込みます。その後、丸呑みした覚せい剤を外に出さなくてはならないのですが、 その時に使用されていたのが、ヒマシ油でした。
ヒマシ油によって無理やり下すことで、排せつ物の中から覚せい剤を見つけ出すのです。4つまでは見つかったのですが、1つが置いてけぼりになり、仲間に笑われながらヒマシ油を追加で飲むというオチでした。
覚せい剤の袋がやぶれ、体内で中身が流出したら…おそらく主人公は死んでいたでしょう。
このように、ヒマシ油にはおもしろいエピソードが他にもありまして、スタンド・バイ・ミーなどさまざまな文学の中でもひまし油の服用が「罰」としても使われています。