Q.ウジの防除に用いる殺虫剤は、結局のところどれですか?

登録販売者試験の第三章、衛生害虫の防除の項目についてのご質問です。

まずは、ご質問の意図を整理します。

質問の意図

試験問題作成に関する手引きには、「ハエ」の項目に、以下のように記載があります。

ハエの防除の基本は、ウジの防除である。ウジの防除法としては、通常、有機リン系殺虫成分が配合された殺虫剤が用いられる。

試験問題作成に関する手引き

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/sikentebiki_4.pdf

まず、この文章から分かることは、ウジの防除法としては、通常、有機リン系殺虫成分が配合された殺虫剤が用いられる。ということです。

また、同じく、手引きの有機塩素系殺虫成分の項目には、以下のように記載があります。

有機塩素系殺虫成分(DDT等)は、我が国ではかつて広く使用され、感染症の撲滅に大きな効果を上げたが、残留性や体内蓄積性の問題から、現在ではオルトジクロロベンゼンがウジ、ボウフラの防除の目的で使用されているのみとなっている。

この文章から分かることは、ウジ、ボウフラの防除の目的で、有機塩素系殺虫成分(DDT等)を使用する場合、現在ではオルトジクロロベンゼンのみが使用されているということです。

とあります。確かに判りにくいですよね。これらのことを踏まえ、結局のところ、ウジの防除に使われるのはどれですか?と質問をいただきました。

ウジの防除に使われる成分

上記の記述をまとめると、つまるところ、ウジの防除に用いられるものは、

●基本:有機リン系殺虫成分

●その他:有機塩素系殺虫成分のうち、オルトジクロロベンゼンのみ

ということになります。

混乱の元となっている、「オルトジクロロベンゼンのみ」の「のみ」は、有機塩素系殺虫成分の中ではこれ「のみ」が使われるということです。

殺虫剤の覚え方

有機リン系成分

有機リン系殺虫成分は、アセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)と不可逆的に結合してその働きを阻害します。この、可逆的に結合するのか、不可逆的に結合するのかというのは非常に大事ですので、必ず覚えましょう。

成分としては、以下があります。

成分

ジクロルボス

ダイアジノン

フェニトロチオン

フェンチオン

トリクロルホン

クロルピリホスメチル

プロペタンホス

すべて覚えるのは大変ですので、有機リン系殺虫成分は、語尾が「ホス」「オン」で終わると覚えましょう。

ちなみに、ホスは、phos(リン)という英語から来ています。

ジクロルボスだけ「ボス」ですが、ちょうどぴったり、ボスは強いイメージなので、作用は「不可逆的(一度コリンエステラーゼという酵素に作用すると、元の状態に戻らないこと)」であると覚えましょう。

有機塩素系成分

有機塩素系成分の殺虫作用は、ピレスロイド系殺虫成分と同様、神経細胞に対する作用が基本となります。

成分

オルトジクロロベンゼン

有機塩素系成分は、 クロロという言葉が付く、と覚えましょう。クロロは英語でchloro(塩素)です

DDTも、ジクロロジフェニルトリクロロエタンの略で、「クロロ」という言葉が入っています。

ピレスロイド系

除虫菊から発見された成分で、殺虫作用としては、神経細胞に直接作用して神経伝達を阻害します。成分としては、

成分

ペルメトリン

フェノトリン

フタルスリン

等があり、語尾に「トリン」「スリン」が付きます。

除虫菊の成分から抽出されたピレトリン(ピレスリン)ですが、化学的に不安定だったため、その他の合成ピレスロイドが開発されました。

英語の「th」にあたる発音が日本にはないため、「~リン」「~リン」という2つの語尾が混在しています。

かの有名な防虫剤、ミセスロイドは、ピレスロイド系です。名前が似ていますね。そしてキンチョーの渦巻もピレスロイド系です。

シラミの駆除を目的として、人体に唯一使えるフェノトリンは超頻出ですので、「増えるシラミにフェノトリン」と覚えましょう。

カーバメイト系、オキサジアゾール系殺虫成分

どちらも有機リン系殺虫成分と同様、アセチルコリンエステラーゼの阻害によって殺虫作用を示します。しかし、有機リン系殺虫成分と異なり、アセチルコリンエステラーゼとの結合は可逆的です。

成分

プロポクスル(カーバメイト系殺虫成分)

メトキサジアゾン(オキサジアゾール系)

カーバメイト系成分は、「バカっぽくするゆうこりん」で覚えましょう。

  • バカ:カーバメイト。また、カーバメイトの「カ」は可逆的の「可」と覚える。
  • ぽくする:プロポクスル
  • ゆうこりん:アセチルコリンエステラーゼの「コリン」と覚える。

これであなたも(殺)虫博士!完璧ですね。合わせてこちらもお読みください。

【補足】カーバメイト系殺虫成分とネオスチグミン

市販薬では目薬に含まれている、ネオスチグミンという成分があります。
実は、ネオスチグミンもカーバメイト系のお薬です。
 
このように書くと、ハテナマークが浮かんだ方がいると思いますので、説明していきます。
ネオスチグミンは、登録販売者試験で超頻出の成分になりますが、主な作用は、ピント調整機能になります。
 
ネオスチグミンは、分かりやすい言葉で言うと、目をリラックスの方向に持っていく薬(副交感神経刺激薬)です。
 
詳しい作用機序は、以下になります。
 
1.アセチルコリン分解酵素(アセチルコリンエステラーゼ)を阻害する
2.アセチルコリンが増えて、副交感神経が興奮する
3.縮瞳(近くのものを見えやすくする)が起こる
 
 
 
 
ネオスチグミンは、赤マルで囲まれたアセチルコリン分解酵素を阻害するので、アセチルコリンがコリンと酢酸に分解されなくなり、相対的にアセチルコリンが増えます。
 
 
さて、一方で、殺虫剤の中で、「カーバメイト系」と呼ばれる成分があります。カーバメイト系で覚えるべき成分は、すでに記載した通り、プロポクスルですね。プロポクスルは、アセチルコリン分解酵素を可逆的に阻害する成分でしたね。
 
 
カーバメイト系殺虫剤の詳しい作用機序は、
1.アセチルコリン分解酵素を阻害する
2.アセチルコリンが増えて、副交感神経が興奮する
3.徐脈、麻痺などが起こる(リラックスの状態が過剰になっている状態を想像してください。)
 
ここで気づかれた方がいるかもしれませんが、ネオスチグミンと作用機序が全く同じですよね。実は、ネオスチグミンも、プロポクスル等と同じカーバメイト系の成分であり、同じコンセプトのお薬なのです。
 
おもしろいですよね。
 
ちなみに、サリンという成分があります。
サリンはオウム真理教の地下鉄テロで使われた成分ですが、こちらも アセチルコリン分解酵素阻害剤の一種です。有機リン系の殺虫成分と同様、アセチルコリン分解酵素を 不可逆的に阻害します。サリンは超強力な成分で、事件では13人もの死者が出ました。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加